素敵な笑顔を咲かせる君と

 日曜日の午後二時過ぎ。私はまたあの喫茶店に行った。


「こんにちはぁ〜!」

「あぁ、舞華ちゃん。いらっしゃい」

「……いらっしゃいませ」


 おじさんと同じエプロンを着ている一ノ瀬くんは、
 私を見た瞬間ため息混じりに嫌そうな挨拶をした。


「一ノ瀬くん、しっかり挨拶をしないとダメだよ」

「……はい」


 店長であるおじさんにはやはり逆らえないらしい。
 男子高校生らしいや。


「おじさん! 今日の気まぐれケーキと紅茶をお願いしまーす!」

「うん、わかった。一ノ瀬くん、今日も舞華ちゃんと駄弁ってていいよ」

「店長も駄弁るとか言うんだ……何歳ですか?」

「何歳だと思う?」


 おじさんの気遣い(?)が耳に入ったので、
 いつものカウンターではなく端っこにあるテーブル席に腰をかける。

 先週と同じ席。


「本当に来ましたね」

「ふっふーん、私は有言実行の女なのだよ」


 顎に指を添えて、ドヤ顔を浮かべる。
 すると一ノ瀬くんは呆れたようにため息をついて椅子に座った。


「それにしても、今日は厚着なんですね」


 一ノ瀬くんの言葉で私は自分の体を見た。

 真っ黒な厚手のコートに赤の少しくたびれたマフラー。そして真っ白なニット帽を被っている。


「今日は寒いもん。北風ピープーだよ。窓の外見てよ、酷いから」

「いやまぁ……風が強いのは見て分かるけど……そんなに?」


 私は冷え性なのだ。風の一つも通したくない。
 だから隙間なく身体を埋めて、体を温める必要がある。


「私の冷たい手、少しお裾分けしてあげる」

「いらない、いらない、めっちゃいらない」


 そんな感じで話していると、
 キッチンの方から紅茶とチョコレートケーキを持って歩いてくるおじさんが目に入った。


「はい、どうぞ」


 コトッという音と共に、紅茶の温かい香りが柔らかく鼻を包んだ。


「おじさん! 今日はチョコケーキなんだね!」


 コートを脱ぎながらおじさんに笑いかける。おじさんはニコッと笑って「そうだよ、召し上がれ」と言った。

 おじさんの背中を見ながら、「いただきまーす!」と言って手を合わせた。


「……!」


 その瞬間、一ノ瀬くんが何かに気づいたようにガタッと椅子から立ち上がった。


「どうしたの?」


 そう声をかけたものの、小走りでキッチンの奥の部屋に入っていった。
 多分エプロンに着替える時の部屋だと思う。


「おじさん、一ノ瀬くんどうしたの?」

「さぁ……どうしたんだろうねぇ……」


 何枚かのクッキーが置かれたお皿を持ってこちらに来たおじさんに聞いたが、何も分からなかった。
 本当にどうしたんだろう。