次の日、お昼休みに食堂から教室に戻るために外に出ると、地面に真っ黄色なたんぽぽが数本咲いていた。
ただのたんぽぽだ。
なんの変哲もない、特別性もないたんぽぽ。
誰もが幼少期からずっと見てきた、公園に行けばいくらでも見られるもの。
気がついたらそれを摘んでいた。
これを描いてほしいと思った。
彼が描けば、なんの変哲もないたんぽぽでも特別なものになる。
そう思ったから。
「高柳くーん、ちょっといいかなぁ」
二年四組の教室に向かって、ドアから覗き込んだ。
そこそこ声を大きくすると、教室にいる人のほとんどが私に目を向ける。
「舞華ちゃん、どうかしたの?」
(ちゃん付けかぁ……)
多分私は彼に自己紹介をしていない。
きっと、先生に反抗している有名人だからという理由で名前を知っているのだろう。
でも、いきなりちゃん付けはちょっと。
「一ノ瀬くんのクラスを教えてよ。お願いしたいことがあるんだよね」
ちゃん付けされた時の気持ち悪さを顔に出さず、
あたかも普通にお話をするかのように振る舞う。
誰もそれに疑問なんて抱かない。
いつだって笑顔を浮かべているだけの女の子。
「お願いって、そのたんぽぽに関係する?」
「うん、これを描いてもらおうと思ってね」
そろそろ急がなければたんぽぽが萎れてしまう。早くクラスを教えてほしい。
「一年三組だよ」
「そっか、ありがと!」
パッと手を振って走って一年三組の教室に向かった。
教室に着いて、ドアの窓からクラスの様子を覗き見る。
こんなだから覗き魔とか言われるんだろうな。
(お、みっけ)
一ノ瀬くんは教卓の真ん前の席に座っていた。
絶対に座りたくない席ナンバーワン。
そこで彼は、静かにスケッチブックに絵を描いている。
なんの絵なのかは分からない。ただ集中していて、またあの綺麗な横顔を見せている。
三十秒ほどその横顔を眺めて、教室に足を踏み入れた。
見知らぬ私が勝手に教室に入ったので、数人の生徒がヒソヒソと話し、こちらを見ている。
「やっほー、一ノ瀬くん元気?」
そう声をかけた瞬間、一ノ瀬くんの体がビクッと飛び上がった。
まるで陸に上がった魚みたいに。
そのせいでスケッチブックが床に落ちてしまった。
「そんなに驚く?」
「クッソマジで……気配消して近づかないでくださいよ……」
「別に消してないけど」
悪態をつきながらスケッチブックを拾って、ついた埃を払っている。
「何描いてたの?」
「……関係ないでしょ」
「そう?」
まぁ確かに何を描いていようと彼の自由だ。
見られたくないものを描いていたりもするのかもしれない。
でもそう隠されると余計に気になる。
(ゴキブリでも描いてたのかな)
流石にゴキブリは見たくないので、何も聞かないことにした。
「ねぇねぇ、私昨日また何か描いてって言ったの覚えてる? 覚えてて?」
「覚えててって……日本語どうなってんですか……」
スケッチブックの埃を払い終わったのか、閉じて机に置き直した。
一ノ瀬くんは腕と足を組んで、随分偉そうな態度をとっている。
「このたんぽぽ描いて?」
「……たんぽぽ??」
はい、と渡すと一ノ瀬くんは静かにその黄色い花の茎を掴んだ。
「ふーん……」
じっとたんぽぽを舐め回すように見ている。
どう描くのか想像しているのかな。
「いいですよ。このたんぽぽを描けばいいんでしょ」
「うん、よろしくね」
そう言って教室から出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「どうアレンジしてもいいですよね」
その言葉に耳を疑った。
てっきりそのまま模写するものだと思っていたから。
「うん、いいよ! 君の好きなように描いてよ!」
そう言って、一年三組の教室から出た。
どんな絵が出来上がるのか楽しみで仕方ない。
ただのたんぽぽだ。
なんの変哲もない、特別性もないたんぽぽ。
誰もが幼少期からずっと見てきた、公園に行けばいくらでも見られるもの。
気がついたらそれを摘んでいた。
これを描いてほしいと思った。
彼が描けば、なんの変哲もないたんぽぽでも特別なものになる。
そう思ったから。
「高柳くーん、ちょっといいかなぁ」
二年四組の教室に向かって、ドアから覗き込んだ。
そこそこ声を大きくすると、教室にいる人のほとんどが私に目を向ける。
「舞華ちゃん、どうかしたの?」
(ちゃん付けかぁ……)
多分私は彼に自己紹介をしていない。
きっと、先生に反抗している有名人だからという理由で名前を知っているのだろう。
でも、いきなりちゃん付けはちょっと。
「一ノ瀬くんのクラスを教えてよ。お願いしたいことがあるんだよね」
ちゃん付けされた時の気持ち悪さを顔に出さず、
あたかも普通にお話をするかのように振る舞う。
誰もそれに疑問なんて抱かない。
いつだって笑顔を浮かべているだけの女の子。
「お願いって、そのたんぽぽに関係する?」
「うん、これを描いてもらおうと思ってね」
そろそろ急がなければたんぽぽが萎れてしまう。早くクラスを教えてほしい。
「一年三組だよ」
「そっか、ありがと!」
パッと手を振って走って一年三組の教室に向かった。
教室に着いて、ドアの窓からクラスの様子を覗き見る。
こんなだから覗き魔とか言われるんだろうな。
(お、みっけ)
一ノ瀬くんは教卓の真ん前の席に座っていた。
絶対に座りたくない席ナンバーワン。
そこで彼は、静かにスケッチブックに絵を描いている。
なんの絵なのかは分からない。ただ集中していて、またあの綺麗な横顔を見せている。
三十秒ほどその横顔を眺めて、教室に足を踏み入れた。
見知らぬ私が勝手に教室に入ったので、数人の生徒がヒソヒソと話し、こちらを見ている。
「やっほー、一ノ瀬くん元気?」
そう声をかけた瞬間、一ノ瀬くんの体がビクッと飛び上がった。
まるで陸に上がった魚みたいに。
そのせいでスケッチブックが床に落ちてしまった。
「そんなに驚く?」
「クッソマジで……気配消して近づかないでくださいよ……」
「別に消してないけど」
悪態をつきながらスケッチブックを拾って、ついた埃を払っている。
「何描いてたの?」
「……関係ないでしょ」
「そう?」
まぁ確かに何を描いていようと彼の自由だ。
見られたくないものを描いていたりもするのかもしれない。
でもそう隠されると余計に気になる。
(ゴキブリでも描いてたのかな)
流石にゴキブリは見たくないので、何も聞かないことにした。
「ねぇねぇ、私昨日また何か描いてって言ったの覚えてる? 覚えてて?」
「覚えててって……日本語どうなってんですか……」
スケッチブックの埃を払い終わったのか、閉じて机に置き直した。
一ノ瀬くんは腕と足を組んで、随分偉そうな態度をとっている。
「このたんぽぽ描いて?」
「……たんぽぽ??」
はい、と渡すと一ノ瀬くんは静かにその黄色い花の茎を掴んだ。
「ふーん……」
じっとたんぽぽを舐め回すように見ている。
どう描くのか想像しているのかな。
「いいですよ。このたんぽぽを描けばいいんでしょ」
「うん、よろしくね」
そう言って教室から出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「どうアレンジしてもいいですよね」
その言葉に耳を疑った。
てっきりそのまま模写するものだと思っていたから。
「うん、いいよ! 君の好きなように描いてよ!」
そう言って、一年三組の教室から出た。
どんな絵が出来上がるのか楽しみで仕方ない。
