素敵な笑顔を咲かせる君と

 日曜日。今日は約束の日。

 お互いに「行くね」「うん」と言って取り付けた約束ではない。
 私が無理やり頷かせた強制的な約束である。


「こんにちは〜!」


 カランコロンという軽やかな音が喫茶店に響く。


「いらっしゃ……はぁ……」


 バカでかいため息をつくのは、私以外にお客さんがいないからである。

 だって、お昼時を避ければお客さんは減る。
 先週みたいに大きな声を出したら迷惑になる、なんてことは起きない。


「一ノ瀬くん、まずはいらっしゃいませでしょ」


 おじさんが優しく一ノ瀬くんに注意する。
 流石に雇い主相手に失礼なことはできないのか、静かに「はい」とだけ言った。


「怒られてやんのー!」

「舌打ちしますよ」

「お行儀悪いよ? おじさーん、今日の気まぐれケーキとコーヒーください!」

「わかった。二人は知り合いなの? 先週はそんなに仲良く話してなかったのに」


 コーヒー豆を挽きながら穏やかな口調で聞いてきた。
 一ノ瀬くんは納得のいっていない顔をしている。


「別に仲良くないです」

「あっははは! 本当に生意気だねぇ! あっはは!」


 お腹を抱えて大袈裟に笑うと、とうとう一ノ瀬くんはチッと舌打ちをした。


「お行儀悪いってば」

「花咲先輩には関係ない」

「おっ! アンタから一歩前進したねぇ!」


 そんな会話をしながらカウンター席に座ろうとした。


「二人ともそんなに仲がいいなら、テーブル席に座りなよ。
 今はお客さんもいないし、一人や二人来ても対応できるから」

「店長……!?」

「オッケー! じゃあ一ノ瀬くん行こっか!」

「…………」


 雇い主の指示だからか、舌打ちはしなかった。
 めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしているけれど。


「本当に来るとは……」

「まじで生意気だね。なんだかんだおじさんの言うことには従うくせに」


 私は窓側のソファの席。一ノ瀬くんは背もたれのある木製の席に座った。
 ため息をつくと幸せが逃げると言うけれど、一ノ瀬くんはたくさんため息をついている。


「立場ってもんがある。僕がアンタに……花咲先輩に楯突こうが退学になったりはしないけど、店長に逆らえばクビになる可能性もあるし」

「言い直した?」

「言い直してない」


 今「アンタ」と言われたような気がしたけれど、仕方がない。見逃してやろう。