素敵な笑顔を咲かせる君と

 君の描く絵は、いつだって淡くて優しい。
 儚くて暖かくて穏やかで。

 端っこにあったはずなのに、一瞬で私は目を奪われてしまった。


「・・・・・・コーヒー?」


 周りの人は、神社やお花や人の絵を描いているのに、この絵だけが異質だった。


「一ノ瀬、春・・・・・・」


 暖かな名前だ。どうやら私の一つ下の一年生のようだ。
 こんなに綺麗な絵を描けるのが羨ましい。

 それが、第一印象だった。




 私は部活には入っていない。

 放課後にわざわざ学校に残ってまでやることなんてないし、何より自分の自由時間を削りたくなかった。


「花咲、ちょっと来い」


 せっかく帰ろうと思ったのに、先生に呼び止められてしまった。


「何回言ったらわかる。カラコンはやめろ」

「カラコンじゃないですって。何回言ったらわかるんですか」


 この生意気な返事をした回数は数え切れない。

 無駄な愛想笑いを浮かべるのも、もう疲れた。


「お前本当に生意気だな」

「よく言われます〜!」


 ケラケラと笑ったふりをして、先生に手を振って逃げるように走って階段に向かう。


「花咲! まだ話は終わってない!」

「あははは!」


 先生には先生の仕事がある。

 どれだけ私が火に油を注いでも、自分の仕事を優先する。逃げるが勝ちってものだ。


(カラコンじゃないってのに、なんで昭和脳ってあんなに人の話を聞かないんだろ。生きづらくないのかなぁ)


 我ながら本当に失礼なことを考える。

 だってそうだろう。私は本当にカラコンなんてしていないし、校則なんて一切破っていないのだから。


 下駄箱への近道を歩いていると、ふと絵を描いている男の子が目に入った。

 別に見ようと思って見たわけじゃない。
 ただ、自然と目に映ったのだ。

 静かに筆を動かして、集中してキャンバスを見つめている。


 何秒見つめていたのか、何分固まっていたのかはわからない。

 ぼーっとしていたことに気がついて、私はすぐに下駄箱に走った。


 あんまりジロジロ見つめちゃ、相手に失礼だからね。