家具や家電はきっと使い物にならないし、すぐに引っ越しができるわけじゃないから今後のホテル代だって馬鹿にならない。どれほど出費が嵩むのか、想像するだけで不安に押し潰されそうだ。
「大丈夫。なんとかなる、なんとかなる……」
先ほどから敢えて口に出して繰り返し自分に言い聞かせているが、一向に不安はなくならない。これ以上、賃貸情報を見ていると気が滅入りそうで、野々花はバッグにスマホを押し込んだ。
その時、座っているベンチのすぐ近くで幼い声が聞こえた。
「やーっ! あっち!」
顔を上げて声の方を見ると、二歳くらいの小さな男の子が、父親と思しき男性の右手をぐいぐい引っ張っている。目の前のサイクリングロードの奥にあるアスレチック広場へ行きたいのだろう。自己主張が強く、しきりに「あっち!」と叫んでいる。
男性の左手は、もうひとりの男の子の手と繋がれていた。
(わぁ、可愛い。双子ちゃんかな)



