「言ったろ。君は維月の恩人だ。双子に怪我でもさせていたら、俺の首が飛んでいた。維月と俺の命を助けてくれた礼だと思ってくれ」
「首が飛ぶって……」
物騒な言葉に目を瞬かせると、一哉がうつろな瞳で呟いた。
「姉は恐怖政治を敷く女王のような人なんだよ」
その言い草がおかしくて思わず小さく噴き出すと、彼はわざとらしく眉をひそめた。
「笑い事じゃない。世の中には君のように自分の生活を切り詰めてまで実家に仕送りをしている女神のような姉がいる一方で、弟を自分の下僕かなにかと勘違いしている女帝みたいな姉もいるんだ」
口ではそう言っているけれど、彼の表情からは嫌悪感のようなものは見受けられない。なんだかんだ仲のいい姉弟なのだろう。そうでなければ、慣れない育児が大変だとわかりきっているのに双子を預かるはずがない。きょうだいが多く家族仲のいい野々花にとって、一哉のそうした部分に親近感が湧いた。
「社長が頼りがいのある弟さんだからこそ、お姉さんも海外へ行く決断が出来たんですね」
野々花が固辞しているのに買い物を強行する強引さはあるけど、こちらのペースに合わせて歩いてくれるし、荷物はすべて一哉が持ってくれている。優しい人であることに間違いはないし、きっと姉に対しても同じなのだろうと察せられた。
「そういう君はうちの姉と違って、誰かに頼ったり甘えたりするのが苦手そうだな」



