一哉の言う『そんなこと』とは、彼に言い寄って困らせることを指しているのだろう。一哉は自社の社長であり、雲の上の存在だ。当然、男性として好意を寄せたり言い寄ったりするなんて恐れ多くてするつもりはないし、できる気もしないけれど、だからといってすぐに「お手伝いします」とは言いにくい。
(でも、このまま断って放っておくのも気が咎める……)
元来のお人好しで世話焼き体質が発動し、バッサリ「お断りします」と言えないのが野々花だ。どうすべきか悩んでいると、一哉は唐突に話題を変えた。
「君の上司から聞いている。自宅が火災に遭ったと。大変だったな」
「えっ? あ、はい」
「差し支えなければ今はどうしてるのか聞いてもいいか? 実家に戻ってるのか、それとも連日ホテルに?」
なぜそんな質問をされているのかわからないし、困窮しているのを社長に曝け出すのは気が進まないが、質問されてはぐらかすのも憚られる。野々花は視線を伏せ、小声で説明した。



