「へぇ、一哉が社員を呼び出すなんて珍しい。野々花ちゃん、なにしたの?」
「えっ、な、なにもしてませんよ!」
偶然見てはならないものを見てしまっただけだ。そう言いたいけれど、相澤や岡田が隠し子について知っているとは限らないため、不用意なことは言えない。
その後、自席に戻っても仕事に集中できず、野々花は早々に切り上げて帰る準備を済ませると社長室へ向かった。
(今クビを宣告されたら、生きていけない……)
比喩ではなく事実だ。ネイバークリプトは他社に比べて報酬が高い。今年からチーフという役職手当てもついたため、同年代よりは稼いでいると思う。
だからこそ実家に仕送りができているのだ。もしもここを辞めたら、生活は一気に立ち行かなくなってしまうだろう。
こわごわノックをすると、中から硬質な声で「どうぞ」と聞こえる。



