本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


野々花は立ち上がると、一哉には一切視線を向けないまま、その場で一礼してミーティングルームを出ていった。泣きたいのを我慢しているのだろう。その表情は硬く、唇が切れてしまうのではと心配になるほど強く噛み締めていた。

その姿を見て、一哉もまた血が滲むほど拳を握りしめる。

「社長のご意見も聞かず、申し訳ありません」
「いや。正当な判断だ」

槇原の謝罪に対し、一哉は首を振った。むしろ彼は野々花の立場を気遣うようなニュアンスで伝えてくれた。彼女もそれがわかったからこそ、ひと言も反論せずに引き下がったのだろう。

「やはり女性に重要なポジションは難しいですよね。部長、今回の件は僕に――」
「後藤くん。この場で話す内容ではない発言は控えなさい」
「いや、しかし……宮部が外れるのなら今回の件は誰が」
「私が担当します。君は自分の職務をまっとうしてください」

野々花を場外に追い込めば自分がその場に収まれるとでも思っていたのだろう。槇原に窘められ、後藤は悔しそうに顔を引き攣らせている。