本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


バカバカしいことこの上ない。目の前の女性が野々花に勝っているところなどなにひとつないというのに、彼女は本気で言っているらしい。

「何度も言いましたが、俺にあなたと結婚する意思はありません。それから、今後一切野々花に関わるのはやめてください。なにを吹き込もうと、俺が彼女を手放すこともあなたに靡くこともあり得ない」
「な……っ、私の父が望んでいるのよ? それを断れるの?」
「すでに義理は尽くしました。泥舟と一緒に沈むつもりはありません」
「ど、どういう意味よ」

亜沙美は父親が社長であることにステータスを感じているようだが、今会社がどんな状況に置かれているのかは知らないらしい。まだ週刊誌やワイドショーには情報が流れていないが、今頃は検察庁が動き始めているはずだ。

益田証券会社は金融商品取引法に違反している。

そう告発したのは、益田社長の秘書を務める根本だった。長年社長の近くで不正を見続けており、良心の呵責に耐えきれずに外部の行政機関である証券取引等監視委員会、通称SESCに密告したが、もみ消されてしまった。そのため、一哉と相澤に相談を持ちかけてきたのだ。