「社内で噂になってるのか」
「それもありますけど……以前、亜沙美さんが私に会いに来たことがあって」
「いつ? なにを言われた?」
「たしか七月の終わりくらいに。一哉さんは私とは『なんの関係もない』と説明して、亜沙美さんとの結婚に前向きなのだと聞きました。結婚後は家庭に入ってほしいという話までしていたんじゃ――」
「あり得ない」
とても最後まで聞いていられないと言わんばかりに、一哉は切って捨てた。
「たしかに益田社長や娘本人から何度も結婚の打診があったが、毎回断ってる。彼女は俺たちの噂を知っていたようだから、野々花に手出しをするなと釘を刺すために『関係ない』という言葉は使ったかもしれないが、俺には大切な人がいると伝えた」
「大切な、人……」
「自宅で帰りを待っていてくれる女性がいる。彼女がそばにいてくれるだけで安らげるし、仕事をやり遂げて早く帰りたいと思う。だから彼女と結婚する気はないと伝えたんだが、全部いいように曲解されたらしい」
その『大切な人』が誰を指しているのかは聞くまでもない。



