それでも、野々花はこの厄介な感情を比較的楽しんでもいた。
昔からずっと家族のことを考えて生きてきた。物心ついた頃から弟妹の世話や家事の手伝いをしていて、恋愛とは無縁の人生を送っていた。
二十八歳のいい年をした女がなにをと思われるかもしれないけれど、恋とはこういう感情なのだというのを初めて体験している。彼のためになにかしたいと思うし、喜んでもらいたい。なにより、一哉のそばにいたい。ちょっとした言動に心が揺さぶられ、期待と不安を言ったり来たりする心を持て余していた。
八月の下旬の土曜日。この日は一哉がどうしても外せない取引先との打ち合わせがあり、昼前から不在にしていた。夕方には帰宅予定だと言っていたため、夕食は一緒に食べる予定でいる。
お昼ご飯を食べ終えた双子がぐっすりお昼寝している間に食器を洗い、夕食の下ごしらえをしていると、玄関からカチャッと鍵が開く音がした。
「一哉さん?」
想定よりも数時間早い帰宅に驚きつつリビングで出迎えると、そこにいたのは見知らぬ女性だった。



