本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


「また宮部さんに自分の趣味を押し付けてんの?」
「あ、健先輩。おはようございます。押し付けてるわけじゃないですよ、布教活動です。もちろん健先輩にもありますからね!」

数分遅れてオフィスに入ってきたのは、ひとつ年下の三柴健。アッシュグレーの短髪がオシャレな彼もまた、野々花の優秀な後輩だ。大学までバスケをしていたらしく、細身ではあるが長身で、クールな美貌はこれまでモテてきたのだろうなと想像できる。

野々花と同様、文乃から布教活動という名のお土産をもらい、「また俺にもあんのかよ……」とげんなりした表情をしている。

けれど毎回突き返すことなく律儀に受け取るし、文乃一押しのアイドルのアクスタをデスクに置かれても文句を言いつつ撤去したりはしない。口は悪いけど優しい人だというのが三柴に対する印象である。

「おはよう、三柴くん。ふたりとも、昨日は急にお休みもらっちゃってごめんね」
「おはようございます。いえ、急ぎの案件はなかったので大丈夫ですよ。風邪ですか?」
「ううん、体調は平気なの。ちょっと週末に色々バタついて……」

火災から二日経った昨日。ようやく室内に入る許可が出たため、有給を取って自宅から持ち出せそうなものを運び出してきた。

予想通り、室内は消火活動により水浸しになっていたため家具や家電はほぼ全滅。クローゼットに掛けていた服も煤まみれ。辛うじて引き出しに仕舞っていた服や下着類で着られそうなものをキャリーケースに詰め込んできた。