本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


(嘘でしょ……)

どうやら野々花の住んでいる部屋のひとつ上の階から出火したらしい。焦げ臭く、黒い煙が充満する住宅街は騒然としていて、野々花はその場で立ち尽くした。オレンジ色の炎が吹き出す窓を見ても現実味がなく、ここは夢の中なのではと思うほど。

そんな野々花を正気に引き戻したのは、恐怖に震える女性の声だった。

『やだ、どうしよう……』
『怖い……』

部屋から避難してきたのだろう。同じマンションに住む大学生の女性ふたりが、部屋着姿で呆然と燃えるマンションを見上げているのに気がついた。

彼女たちには見覚えがある。四月のはじめに、引っ越しの挨拶に来てくれた子たちだ。まだあどけなさの残る十代の子を放っておけず、野々花はふたりの元へ向かった。

『大丈夫? 一緒に消防と大家さんのところに行きましょうか』

就職と同時に上京して以来、六年ほど住んでいる三階建てマンションには学生も多く住んでいる。会えば挨拶をする程度の関わりしかなくても、火事のショックで泣き出す子を見れば手助けしたくなるのが野々花だ。