本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


バクバクと心臓が嫌な音を立てている。

「あなたがどこまで理解しているのかわからないけれど、一哉さんにとって父は恩人と言っても過言ではないの。彼の会社がここまで大きくなったのは、父に先見の明があったからよ」

それは野々花も聞き及んでいる。個人投資家向けの金融システムである程度成功していたとはいえ、企業相手にシステムを使ってもらうまでが大変だったと聞く。だから大手証券会社と取引が始まり、Payアプリで会社が大きく育った今も、益田との付き合いは大切にしているらしい。

「私の父は、一哉さんと私の結婚を望んでいるの。どうするのが一哉さんのためになるのか、よく考えて」

暗に邪魔をするなという圧力を受け、野々花は唇を引き結ぶ。

一方、亜沙美はふわりと美しい笑顔で伝票を持つと、注文したコーヒーをひと口も飲むことなく店を出ていった。