「相手は広報の子らしいし、政略結婚の話が漏れないようにするカムフラージュとか?」
「えぇ? わざわざそんなことするかなぁ」
「じゃあ益田亜沙美に乗り換えたとか? 話し方とか態度が鼻につくけど美人だし、益田証券ってかなりうちと付き合い古いんだよね」
「立ち上げ当初から取り引きがあったんじゃない? おかげで軌道にのったって聞いた」
「じゃあ恩もあって断れない縁談なのかな。会社のトップも大変だねぇ」
社員食堂やミーティングスペースなど社内の様々な場所で似たような話題を耳にするたび、チクリと胸が痛む。
実際、益田は連日ネイバークリプトに通い詰めているし、一哉や相澤も時間を作って対応しているようだ。そこでどういった会話がなされているのかは野々花の知るところではないけれど、本来部外者である娘の亜沙美を連れて来ているのなら、社員たちが『縁談が持ち上がっているのでは?』と勘繰りたくなるのも頷ける。
後藤などは嬉々として「やっぱり上流階級は上流階級同士まとまるもんだなぁ」と聞えよがしに話していた。
そうした周囲の声が気にならないわけではないけれど、野々花はそれらに対しなにか言えるような立場ではない。ただ一哉の甥っ子のベビーシッターとして同居している一社員で、周囲から〝社長の結婚前提の恋人〟と思われているのは、その方が彼にとって都合がいいからに過ぎないのだ。



