本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


「ねぇ、文乃ちゃん。社長から頼まれてるって……」
「本当の話ですよ。昨日、社長が広報のフロアに来た時に言われたんです。野々花先輩がここで働きにくくなるのは避けたいけど、なにかあっても『大丈夫』って強がるだろうから、気になることがあったら教えてほしいって。部長とも話してたし、たぶん同じこと言ってたんじゃないですか? 愛されてますね、野々花先輩」

まさか自分が休んでいる時に根回ししているなんて。『野々花に害がないよう最大限配慮する』という一哉の言葉が思い出された。偽りの関係だとわかっているけれど、その優しさに胸が熱くなる。

「社長の方がベタ惚れだっていう話が広まってるから、野々花先輩に嫌みを言っても無駄だって、密かに社長狙いだった女性社員はみんな諦めたみたいですよ」
「……随分無理のある設定なのに、そんな話を信じてる人がいるんだね」
「無理なんてないですよ。野々花先輩、美人だし可愛いし仕事デキるし、お似合いカップルだって言われてます。だから今後も後藤さんに嫌なこと言われたら、すぐに社長に伝えたらいいと思いますよ。男の人って頼られた方が嬉しいって言うじゃないですか」

そういえば、一哉も同じようなことを言っていた。

『誰かに頼るのが苦手な君を甘やかす役目を、俺にくれないか』

一哉の甘い眼差しを思い出すと、恥ずかしさに身の置きどころがなくなってしまう。野々花は曖昧に笑って頷いた。