すると、一哉は目を細めてじっと見据えてきた。
「変な噂が蔓延する前に手を打った方がいい。誰彼構わず吹聴する気はないが、なにか聞かれた際に俺が『結婚前提の交際』だと言い切れば、おかしな噂も立たないだろう」
「でも……」
誰かを傷つけるものではないとはいえ、そんな大きな嘘をついたことがない。きっとボロが出てしまうだろうし、社長である一哉の結婚相手が平凡な野々花だなんて誰も信じないのではないだろうか。
答えに詰まり黙り込んだ野々花に対し、一哉は探るような視線を向けた。
「……もしかして、社内に好きな男でもいるのか?」
「いっ、いませんよ」
即座に否定すると、彼はホッとした表情で言った。
「だったら、俺のためにも結婚前提の交際をしているということにしてくれないか。もちろん、野々花に害がないよう最大限配慮する」



