母には随分と心配をかけていたらしい。涙声で話す母は、一哉の話を少しも疑っていないようだ。野々花は慌てて否定しようと口を開いた。
「あのね、お母さん」
『白河さん、娘はしっかりしていて我慢強い子ですが、私が不甲斐ないせいで甘え方を知らずに育ってしまったんです。どうか、娘を大切にしてやってください』
「もちろんです。また改めて、そちらにご挨拶に伺わせてください」
それからひと言ふた言会話を交わし、母との電話は終了してしまった。
通話を切ると、リビングが静寂に包まれる。野々花は釈然としないまま隣に座る一哉を見上げた。
「一哉さん。どうして母に『結婚前提の付き合い』だなんて……」
「単なる会社の上司と伝えるより、結婚前提の恋人としておいた方がお母様も安心だろう」
「そう、かも、しれませんけど……」
電話口で喜んでいた母を思うと、どうしようもない罪悪感にかられる。きっと母は一哉が挨拶に来るのを心待ちにしているだろう。
(そんな日は絶対に来ないのに……)



