『なんでもっと早く言わないの。怪我はなかった? もう、こっちに仕送りなんてしてる場合じゃなかったんでしょう?』
「ごめんね、心配かけると思って言わなかったの。怪我もなかったし、ちょっと時間はかかりそうだけど保険も下りるみたい。私は大丈夫だから」
『大丈夫って……それで、今はどこに住んでるの?』
母に尋ねられ、野々花は返答に困った。正直に自分が勤める会社の社長の自宅でお世話になっていると言っていいものか迷い、言い淀む。三柴が言っていたような発言を母の口から聞きたくないし、そんな言葉を一哉に聞かせたくない。
すると、一哉がスッと野々花のスマホを取り上げた。
「えっ、一哉さん?」
「初めまして。ネイバークリプトの代表取締役社長を務めております、白河一哉と申します。野々花さんとは結婚を前提にお付き合いさせていただいていまして、火事をきっかけに私の家に来てもらっているんです。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」
電話の向こうで母が驚いているのが聞こえる。
(結婚を前提にお付き合いって……一哉さん、どういうつもり⁉️)
同居している点を話したのはともかく、なぜ『結婚前提に付き合っている』などと嘘をついたのか。一哉をじっと見つめたが、彼はスマホのスピーカーボタンを押して微笑むだけ。



