「たしかに、熱は下がったみたいだな」
「ちゃんと体温計で測りましたよ。平熱でした」
「だからって、すぐに家事なんてしなくていいから。今日はゆっくりしてて」
「でも、仕事もありますし」
そう言うと、一哉は「まさか、出社する気だったのか」と怖い顔をした。
「昨日は三十九度近くあったんだ。急に下がったなら、身体がダルいんじゃないか?」
「それは……でも、少しだけですし、だいじょう――」
「悪いけど」
彼のスラリと長く美しい人差し指が、野々花の唇に触れた。
「野々花の『大丈夫』は信用できない。君はすぐに無理をしようとする。いい子だから、言うことを聞いてくれ」
まるで双子に対する言い回しのように聞こえるが、一哉の眼差しや声音には蕩けるような甘さが含まれている。
野々花がなにも言えずにコクコクと頷くと、彼は満足げにふわりと微笑んだ。



