突然野々花に話しかけられたことで、癇癪を起こしかけていた男の子の気が逸れる。ぱちぱちと瞬きを繰り返したあと、大きな声で「しらかわいちゅき」と答えてくれた。
「わぁ、カッコいいお名前だね。維月くん、お姉ちゃんとここで鬼ごっこして遊ばない?」
「おにごっこ? しゅるー!」
どうやら人見知りな性格ではないらしい。一哉が李月をトイレに連れていく間くらいなら泣かずに待っていられるだろう。ご機嫌で答えた維月の後ろで、一哉が目を見開いている。
「社長。よろしければ私が維月くんと一緒に待ってますので、そちらの李月くんをトイレに連れていってあげてください」
この時期の活発な男の子をふたり連れてオムツ替えに行くのは、かなり大変だろう。李月にかかりきりになっている間に、維月が先ほどのように走っていってしまっても追いかけられない。
個室の多目的トイレがあればいいけれど、残念ながらこの公園の多目的トイレはアスレチック広場の向こう側にある。広場を通れば維月がまた『あしょぶ!』と足を止めてしまう未来が初対面の野々花にもありありと浮かんだ。
「……すごくありがたいけど、これ以上迷惑をかけるのは――」
「子供の相手をするのは慣れてるので大丈夫ですよ。あ、余計なお世話でしたら申し訳ありません」



