本日より、弊社社長と疑似子育て始めます


あれはたしか二ヶ月ほど前のこと。一哉にインタビューしたビジネス誌の記者が、一哉の写真を掲載させろとチーフになったばかりの野々花に迫るという出来事があった。

『その方が売上が伸びるし、御社にとっても有益でしょう。そのくらいの判断も下せないなんて、所詮チーフなんて名ばかりかぁ。若い会社だから管理職が若いこともあるだろうけど、やっぱり女は腰掛け程度にしか仕事を考えてないんじゃないかぁ?』

先に退室した一哉が忘れ物を取りに戻ってきたことに気付かなかったのだろう。その記者は五十代くらいの男性で、社長の一哉に対しては腰の低い丁寧な対応をしていたが、野々花と後輩の女性だけになった途端に態度を豹変させたようだ。すぐさま間に入ろうと思ったが、彼女は怯まなかった。

『なぁ、そっちのお嬢さんもそう思わないか? うちに写真掲載の許可をもらえたら、おたくの企業イメージだって上がる――』
『弊社は社長の容姿ではなく、技術で闘っておりますので。お力になれず申し訳ございません』

野々花は後輩の女性にまで絡もうとする記者から庇うように前に出ると、毅然とした態度であしらったのだ。

一哉は客寄せパンダではないとオブラートに包みながらもしっかり断ったのを目の当たりにして、その凛とした姿に思わず見惚れた。野々花を頼もしく思うのと同時に、広報部長がなぜ社外広報のチーフに彼女を推薦したかを理解したのもこの時だ。