一哉の母は幼い頃に亡くなっており、父親は大手証券会社の副社長までのぼりつめた仕事人間だった。金銭的には裕福で何不自由なく育ててもらったため感謝はしているけれど、幼い頃は家族団欒に憧れ、それが叶わない現実を随分寂しく思っていた。
そんな少年の頃にできた心の小さな空洞を、野々花の持つやわらかい春の日差しのようなあたたかさが埋めてくれた気がする。
一緒に過ごせば過ごすほど、彼女の人柄に惹かれていく。それと同時に、人に甘えられない野々花を自分が甘やかし、守りたいとも思うようになった。
(最初にシッターを頼もうと決めたのは、ほとんど勢いだったのにな)
一哉の膝の上で寝息を立て始めた双子の背中を撫でながら、一哉は彼らを預かった当初の頃を思い出した。
『一哉、お願い! 二ヶ月間、この子たちを預かってほしいの』
昔から暴君のような姉だったけれど、この時ほど突拍子もない命令をされたのは初めてだった。美月いわく、ツテのある出版社から戦地取材のチームのひとりとして声がかかったそうだが、一哉は顔をしかめた。



