恋煩いの処方箋


「大和、追いかけよう!」
 困惑した様子で亜子は訴える。俺は首を横に振る。
「無駄だよ。あの人は言い出したら聞かないから……」
 いつだってそうだ。全部自分で決めて、従わなければ権力を振りかざす。今まではそれに従うしかなかった。まだ子供だったから。でももう、今までのようにはいかない。俺は人の親になって守るべき家族ができた。息子である前に和花の親であるべきだと思う。
「今日の所は帰ろうか。のんちゃんが待ってる!」
 地価の駐車場に下りて、車に乗り込む。思えばこの車も父親に与えられたものだった。医師国家試験に合格したお祝いとして。今住んでいるマンションの家賃も親に支払ってもらっているし、私立の医学部の学生はほぼ親が医者か資産家の場合が多く、そんな中にいたから特別なこととは思わないでいた。援助は断ろう。専攻医の給料では今の生活水準は保てないけれど、家族三人が慎ましく暮らすには十分だ。
「……亜子。心配しないでいいからな。父には分かってもらうまで話し合うつもりでいる。大丈夫、必ず認めてくれるさ」
 ほんの少しだったが亜子の顔から不安の色が薄れた気がした。俺はホッとしつつも父をどう説得するのかを考えなければならない。
「あまり強く言ったらだめだよ。先生の気持ち、分からないではないから。私ものんが結婚するなら条件がよりいい方を選んで欲しいと思うかも」
 彼女の本心ではないとすぐに分かった。俺はすぐに否定する。
「そんなこと言わないでくれ! 亜子は唯一無二だ。他の誰とも比べられない。俺は亜子がいいんだ。条件なんてクソくらえだ!」
 運転中でなかったら彼女を抱きしめていただろう。これ以上辛い思いはさせてはいけない。
「ありがとう、大和。私、自信なくしてた……大和の隣にいていいんだよね?」
「もちろん、ずっと一緒だよ」
 環状線から東北道へ乗ると車はスムーズに流れていた。日が落ちる前に帰り着くだろう。
「十六時には着きそうだけど、のんちゃんは今頃なにしてるかな?」
「きっとじいじに甘やかされてると思う。ほんと、お父さんはのんには弱いの。おもちゃもシールもあんまり買わないでって言ってるのに……」
 また増えていたらどうしようと亜子は言う。彼女の両親にはお世話になりっぱなしだ。頭が上がらない。だからこそ、自分の父親が情けなく思う。
「俺も買っちゃうかも、のんちゃんの欲しいもの全部」
「もう! 絶対ダメだからね」
 あんなにかわいい和花に会ったら、父も一瞬で虜になってしまうはずだ。いつかは会わせたい。父と母に。