恋煩いの処方箋


「夕ご飯は手巻き寿司だよ! 先生、お寿司好き?」
「好きだよー、のんちゃんもお手伝いしてくれたの?」
「そうだよ! みてーあ、その前に手を洗いましょ!」
  階段を上り終えた和花は大和をお風呂場に連れていく。脱衣所にある洗面台で一緒に手を洗い、テーブルの前に案内する。
「どうぞ、座ってください」
「はい、ありがとうございます」
  まるでおままごとのセリフみたいでつい笑みを漏らす。このまましばらくふたりの姿を眺めていたくなる。すると、
「ママもはやく座ってください!」
 和花に急かされてしまう。
「はいはい、のんちゃん。少しお待ちください」
 冷蔵庫にプリンの箱をしまい麦茶のボトルを取り出す。グラス三つに注ぐとそれを持って大和の向かい側に座った。
「手を合わせてください、いただきます」
 保育園でやっているように、和花の号令に合わせていただきますをする。
「ほんと、すごいね。準備大変だったろう?」
「ううん、お刺身並べただけだもん。遠慮なくたくさん食べてね」
 大和にとってはたいした料理ではないかもしれない。だけど、これが私の今の精一杯だから。
「先生、どれが好きー? のんが作ってあげる」
和花は張り切って大和の世話を焼いている。
「のん、先生の邪魔しちゃダメよ!」
みかねて注意する。すると大和は「いいんだよ、亜子。俺、のんちゃんにかまってもらえてめちゃ幸せ」とデレる。「いいんだよね〜」と和花が言って、「ねー」と大和が返す。なんて微笑ましい光景だろう。
「はいはい、それはなによりですねぇ」
ふざけて、わざと拗ねたように言う。仲良くしてくれてなにより、と思うけれどほんの少し寂しさも感じていた。母娘ふたりの時間が長すぎて私の方が子離れできない予感がする。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、大和は、「じゃあ、はい。亜子は大和スペシャルをどうぞ」と、手早く作った手巻き寿司を手渡してくれる。
「いいの? ありがとう」
 しげしげと見つめる。ネギトロとサーモン、大葉にいくらまで入っている。
「ママはやく食べて!」
 和花は目をキラキラさせている。純粋な眼差しに見守られながら、手巻き寿司を頬張る。具材と酢飯のバランスがちょうどよく、大葉がサッパリとして食べやすい。
「おいしい、です」
 感想を述べると「次はなにがいい?」と大和が言う。
「え、次? いいよそんな、悪いよ」
「いいんだよ、俺がそうしたいんだ。どうしても自分で作りたい!って言うなら手を引くけど?」
「そんなこと、ないけど……じゃあ、イカと納豆!」
図々しく注文してみる。すると大和は職人さんみたいにパパっとイカ納豆を作ってくれる。
それをみていた和花も私の寿司をつくりたがった。
大和へのお詫びの夕ご飯なので、私がゲスト扱いされるではいけない。だから「次はママがふたりに作ります!」と宣言して、それぞれの好みの具材を巻いた手巻き寿司を作る。食べ終えるとまた誰かのまでに巻いて、また食べてを繰り返す。賑やかで、楽しい夕ご飯になった。