恋煩いの処方箋


「そうなんです。偶然スーパーで会って、それでのんちゃんがどうしてもって離れてくれなくて……」
つい言い訳がましくなってしまう。悪いことなどしていないのには後ろめたさだけはちゃんとある。
「どういうつもりなんでしょうね」
「……どう言う意味ですか?」
 不穏な言葉に私は眉を顰める。すると杉崎さんは言いにくそうに口を開いた。
「あそこで看護師してる友達から聞いたんですけど、あの先生、同僚と付き合ってるらしいです。それなのに女性の家に上がり込むなんて不謹慎ですよ……」
 鈍器で頭を殴られた様な衝撃だった。大和ほど素敵な人ならば、恋人くらいはいるだろうと思いつつ、どこか期待していたのだと思う。
もしかしたらこのまま、在るべき家族の姿へ戻れるかもしれないーーと。
そんな都合のよい展開が待ち受けているなんて、夢物語でしかないのに。
「お付き合いしている女性が……そうなんですね」
 冷明を装いながら答える。動揺していることは悟られたくなかった。
「はい、俺はそう聞きました。だけど、事実かどうかは本人に確かめた方がいいと思います」
 真っ直ぐにこちらを見て杉崎さんは言う。彼らしい、真っ当なアドバイス。
「そうですね、聞いてみます。……これもありがとうございました」
 いただいた野菜の袋を少し持ち上げて言う。
「じゃあ、俺はこれで」
 杉崎さんを見送り部屋に戻るとふたりは一緒にお皿を拭いてくれていた。