ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる

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 チェリー川には、すでに大勢の人がいました。
 みんな、楽しそうです。

 風がかすかにふいています。

 私は「とんぼのめがね」の歌を口ずさみながら、水中めがねを装着しました。
 私、水中めがねをつける時には、どうしても「とんぼのめがね」を歌ってしまうんですよね。
 小さい頃からの癖です。
 夏のチェリー川と水中めがねと「とんぼのめがね」は、ぴったり合うと、思うんです。
 私、虫、さわれませんけど。

 川の水は、きらきらと輝いています。
 
 足をつけると、ひんやり。

 気持ちいい!

 肩くらいの水の深さの所にくると、私は、つまさきで川底を蹴り、弾みをつけて、潜りました。

 チェリー、今年も来たよ!

 川とのあいさつは、何といっても、この潜水です。
 チェリー川は、その透明度と水の圧でこたえてくれます。

 私は、川底の石や小魚を見ながら、しばらく潜り、それから、浮き上がると、水中めがねを目からずらし、仰向けになりました。

 まぶしい日の光が目に入らないように、頭を下流のほうにします。

 青い空には、白い雲がありました。

 雲も、川も、私も、少しずつ流れています。

 ……。

 それからしばらくして、私は、大岩まで静かにゆっくりと泳ぎました。

 飛びこみです。

 水中めがねを、おでこにあてがうと、岩をよじのぼりました。
 
 久々の大岩です。
 
 私は、日の光で暑くなっている岩の感触を、なつかしく、うれしく感じました。
 
 両手、両足で、岩を抱えこむようにして上がっていきます。

 大岩の上には、大人の男の人が三人いました。

「こんにちはぁ」
 私は、登りきると同時に、声を出しました。

「こんにちは」
 みんな、明るい声でこたえてくれました。

 大岩の頂上に登ると、心がはればれします。

 流れていく川の泡の白い色も、とってもきれい!

 私は、夏の日の光を全身に浴びながら、大きく息を吸い込みました。

 木と川の夏のかおり。

 私は確かに地球の中で生きています。

 じっ・かぁ・んっ!

 男の人たちが次々に飛びこんでいきます。

 私の前にいた人が飛びこみ、水中から顔をだして、ゆっくり泳ぎだしました。

 私は、それを確かめると、水中めがねを装着し、宙に飛びました。

 伸身の一回転! 

 水しぶきが、ちょっとあがってしまったかしら、と私は水中深くまで潜りながら思いました。

 でも、とっても楽しい!

 私が三回、大岩から飛びこみ、四回目を飛びこもうと、大岩に手足をかけ、登り始めた時でした。
 大きな笑い声が、私の後方でおこっているのに気づきました。

 何か楽しいことがあるの?

 私もそっちに行ってみたい衝動にかられました。

 もしかして、チッチャがまた来たのかしら。

 そんなことも頭に浮かびました。

 私は、大岩を登りきると、後ろを振りかえってみました。

 すると、やっぱり、笑っている人が大勢います。
 十人くらいでしょうか。
 大笑いしている人もいれば、笑いをこらえているような人もいます。
 こっちを指さしている人もいました。

 私は周囲をきょろきょろと見ました。
 大岩には、私の他に、大人の男の人が二人、立っていました。
 何も、面白いことはしていません。

 もしかして、女の子が大岩から飛びこむのがおかしいんでしょうか。
 いえ、それはないはずです。
 私は小学四年生の時から、飛びこんでいますけど、笑われたことなんて、ただの一度もありません。
 いえ、それどころか、すごいって拍手されます。

 いったい、何なの? 

 大勢が、まだ笑っています。

 私は、不思議に思いながら、とびきり、きれいに飛んでやろうと岩を蹴りました。
 空が、木々が、川が、辺りの景色が、一瞬のうちに回転して、私は指先から水にすっと入りました。

 よし! 

 私は水中深くで、ガッツポーズをしました。
 自分でも、会心の飛びこみができたと思います。

 水の上では、驚きと感動の歓声に、拍手なんじゃないかしら。

 ウフッ!

 私はゆっくりと水面に顔をだしました。

 拍手です!

「すげー!」

「あんなかわいい女の子が!」

「オリンピックに出られるぞ!」

 そんな声が聞こえてきました。

 えへへ。
 もう一回、飛びこまなきゃだわ……。
 私は、ちらと思いました。

 でも、自慢してるように見られるのも嫌なので、続けて飛びこむのはやめにしました。

 それに、笑ってしまう、何やら、楽しいことがあるようだし。

 私は、何がそんなに笑えるのか、笑っている人に聞いてみたくてたまりませんでした。
 もう今から、にやにやしてしまいます。

 私は、川からでると、水中めがねをおでこに上げ、さっき笑っていた人たちのほうへと歩いていきました。

 すると、横合いの岸から、歓声があがりました。

「すげー飛びこみだった! フグつけちゃって」

「あんなにかわいくて、フグがまたいいわ!」

「オリンピックに出られるぞ! フグちゃん!」

 ああっ! 
 私のお尻のフグだったんです! 
 みんなが笑っていたのは!

 たくさんの笑い声が、私の耳の中で、渦を巻きます。

 ここは、勝手知った大好きな場所のはずなのに、知らない世界に迷いこんでしまったかのようでした。

 私は、お尻を両手で隠して、走りだそうかと思いました。
 でも、そんな格好で走れば、もっと笑われそうです。

 どうしよう……。

 私は、川へ戻りかけました。
 泳ごうと思ったんです。
 そして、川の中に隠れてしまおうと。
 川はいつだって、私の味方ですから。

 すると、木陰に、オレンジ色のポロシャツを着たお姉ちゃんが、座っているではありませんか。

 お姉ちゃんの隣には、白いポロシャツ姿の、サングラスをかけた大柄な男の人がいました。
 私の知らない人です。
 でも、今、隣の男の人が誰かなんて、どうでもいいことでした。
 夏の強い日ざしと笑いに包まれた私には、木陰でくつろぐお姉ちゃんの姿が救いの神のように見えました。

 やっぱり、お姉ちゃんは「天」なのかも! 

 私は、お姉ちゃん目がけて、石を踏み外さないように、できるだけ小走りに走っていきました。
 お尻を両手で隠したいのを我慢しながら。

 ミンミンゼミが、ミーンミンミンミンミンと鳴いています。
 ミンミンゼミは、まさか、私のお尻のフグを笑ったりはしていないでしょう。

 もしかして、ミンミンゼミも笑ってる?