ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる

 アシカ選手になる予定の、デッカこと、チッチャは言っていました。
 泳ぎの楽しさの先には、苦しみやつらさがあって、その先にまた、すごい楽しさや喜びがあると。

 私は泳ぎの苦しみやつらさなんて知りません。

 泳げば、いつだって、楽しいですから。

 そこで、私は、カッパーさんの言葉も思い出しました。

 何かを手に入れると、何かを失うものだよ。
 新しく手に入れた何かは、いいものかもしれないし、悪いものかもしれない。

 もし、私が、泳ぎの楽しさの先の、苦しみやつらさを知れば、何かをどんどん失っていくのでしょうか。

 それは、私にとって、いいことなのでしょうか。

 それとも、悪いことなのでしょうか。

 今、私にはわかりません。

 でも、私は、泳ぎの楽しさの先にある、苦しみやつらさ、そして、その先にまたあるという楽しさや喜びを知りたい、味わってみたいと思いました。

 脳みそ鉄筋コンクリートの大人リクちゃんに、私も負けていられませんから。

 さらに西に傾いた夕日は、その赤みを濃くしていました。

 きれい。

「俺も、がんばる」

 リクちゃんは澄んだ瞳で、右の手を差し出してきました。

 握手です!

 私たちは、互いの右の手をしっかりと、にぎり合いました。

 私の頭の中は、また、きらきらでピカピカになりました。

「はい」

 リクちゃんは、左手で持っていたナナフシを、私の右手の甲に乗せてきました!

「きゃーっ!」

 私は思わず、右の手を引っこめ、何度も何度も、高速に払いました。

 ナナフシは、緑の草の上に落ちました。

 リクちゃんは、大きく目を見開いて、固まっています。

 私は、心臓、ドカドカです。

「もしかして、アユちゃん、ナナフシ、好きじゃないの?」

 リクちゃんは、私の顔を覗きこむようにして訊いてきました。

 私は、大きく、うなずきました。

「じゃあ、アユちゃんには、これを、あげる」

 リクちゃんは、短パンのポケットを探りだしました。
 
 えっ……、なあに? 

 川の中でリクちゃんを後ろから抱きしめた感触が、私によみがえってきました。

 身につけられるようなものをもらえたら、私、うれしいです。

 胸のドカドカが、ドキドキになっていました。

「はい」

 リクちゃんは、ポケットの中から、何やら、取り出しました。
 
 黒くて小さな楕円形の……。

 虫です! 

 ゲンゴロウ! 

 いつからポケットにいれてたの?

「いらなーい!」

 私は、首を横に、何度も何度も、振りました。

 胸のドキドキは、またナナフシの時と同じドカドカになっていました。

「アユちゃん。ゲンゴロウも、好きじゃないの?」

 リクちゃんは、目をぱちくりさせます。

 私は、何度も何度も、うなずきました。

「そうなんだあ。俺は、ゲンゴロウ、大好きなんだけどなあ」
 リクちゃんは、真顔で言います。

 やっぱり、リクちゃんは、全然、大人になんか、なっていません!
 
 でも、私は、こんなリクちゃんが、好き、好き、大好きなんです。(了)