ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる

 日は、西に大分、傾いていました。

 セミたちはまだまだ元気いっぱいで、大合唱です。

 私はセミに警戒しながら、リクちゃんと並んで林の中の道を家へと歩きました。

 二人とも、ペタペタ、裸足です。

「リクちゃんって、怒らないね」

「うん?」

 リクちゃんは、きょとんとしました。

「私は、お姉ちゃんに意地悪とかされると、頭にきちゃうよ。リクちゃんは、グリズさんに、頭にこなかったの?」
 私は、しわくちゃのマントヒヒとリクちゃんの、両方の顔を見ながら言いました。

「べつに。俺、人に、何言われようが、何されようが、かまわないもの」

「コブラなんとか、かけられたら?」

「コブラなんとか?」

「プロレスの技」

「ああ。コブラツイストか」

「そう。私、お姉ちゃんにかけられたんだよ。頭にきた」

「それで、アユちゃん、仕返ししたの?」

「ううん。しようかと思ったけど、やめた」

 仕返しするのをお母さんに止められたことと、コブラなんとかよりも強い技を私が持っていなかったことは黙っておきました。
 それを言うのは、かっこ悪いと思ったからです。

「偉いじゃん」

「えへへ」

 私は、やっぱり、よけいなことは言わないでおいて、よかったと思いました。

「俺も、人に痛い思いさせるくらいなら、自分が痛い思いしたほうがいいな」

「えぇっ! だめだよ、リクちゃん。誰かを痛い思いさせても、自分が痛い思いしても」

「俺は、鍛えてるから平気だよ」

「だめ、そんなの、絶対、だめ。痛い思いして、リクちゃん、我慢なんかしちゃ、だめ」

「うん。暴力は絶対にだめだ。戦争なんて、一番の暴力だからな。俺が言いたいのは、悪口とか、嫌がらせとかをされた時のことだよ」

「ああ。痛い思いって、心を傷つけられるとか、そういうこと?」

「そう。俺、誰かをやっつけるために、鍛えてるわけじゃないから。自分を守るためでもない。戦うためじゃないんだ。俺は、ただ、いつだって平気な気持ちでいられるように、鍛えてるんだ」

 ……。

 私は、びっくりしました。

 リクちゃんをまじまじと見るだけで言葉がでません。
 
 リクちゃんは、胸のあたりがむずむずするのか、しわくちゃで気の毒なマントヒヒのおでこを、右手でかきます。
「つらいとか、苦しいとか、心が弱かったら、体は鍛えられないから」
 
 ……脳みそ鉄筋コンクリートって、そういうことだったの! 

 私は、すっかり感動してしまいました。

 リクちゃん、大人になってる……。
 
 私は、リクちゃんの、あまりに近くにいて、今の今まで気づきませんでした。
 きっと、リクちゃんなら、スジコを食べても、「生臭!」って言わないでしょう。

「でも、コウちゃん、勉強もできて、プロレスもできて、やっぱり、すごいな」

「泳ぎは、私に負けるけどね」

「泳ぐのだって、コウちゃん、うまいよ。アユちゃんの泳ぎが、すごすぎるんだよ」

「すごくない。私、リクちゃんを、助けられなかったもん……」

「俺、アユちゃんに助けてもらったんだよ。あの岩につかまっていた時、すごい流れから、俺を守ってくれたの、アユちゃんだよ。『何が何でもリクちゃんを助ける』っていうアユちゃんの声で、ああ、俺は大丈夫だ、助かるって思えたんだ」

「私の声、聞こえたの?」

「うん。聞こえたよ。アユちゃんがいなかったら、俺は今頃、海に流されて、サメに食われてる」

「そんな……」

「アユちゃんはヒーローだよ」

「私は、代表の補欠の補欠の補欠にもなれないし……」

「なに、それ?」

 なに、それって……。

 リクちゃんも、チッチャに、「オウム」って言われてしまいますね。

 あ! リクちゃんと私の間では、あのアシカ選手になるというアシカは、デッカでした。

「あのね……」

 私は、デッカに助けられたこと、そしてデッカに言われたことを、ありのまま、リクちゃんに話しました。

「私の夢だったのかもしれないけど……」

「それ、夢じゃないよ。デッカは、ちゃんと人間の言葉を話せるんだし、あんなにすいすい泳げるんだし、デッカが、オリンピックを目指すのだって不思議なことじゃないよ」
 
 私も、なんだか、リクちゃんの言うことが、もっともであるように思われました。
 
 そして、キツネのきれいなお姉さんのことも思い出しました。
 お姉さんの水着姿も見てみたくなりました。