ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる

 きれいなお姉さんは、ふんと鼻先で笑いました。

「育ちの悪いお子ちゃまたちに、スジコのおいしさは、わからないわね」

「いい暮らしをしてそうな男子高校生はどうですか?」

 私は、グリズさんにチェリー川でオロロローッなんて吐いてほしくありません。

「難しいんじゃないかしら」

 お姉さんは、あっさり言って、細く長い脚を組み直しました。

「その男子高校生、体は筋肉もりもりで、すごく楽しみにしているんですけど……」

「私が代わりに食べてあげるわよ」

「代わりに、ですか? 今、ここで?」

「そう。お金なら払うわ」
 
 お姉さんは、一万円札をテーブルの上に、そっと置きました。
 
 ピン札です! 

 って、え? 

 ……。

 私は、目をぱちくりさせました。
 
 ピンピンのお札にも驚いたんですけど、きれいなお姉さんのお尻のあたりで、何やら、白くて太い尻尾のようなものが動いているんです。

 ふわふわとした感じで、長くて、本当に尻尾みたいで、……っていうか、尻尾ー! 

 尻尾です! 
 
 お姉さんは、私の視線に気づいたようです。
「私、用事を思い出した。帰るわ」
 そう言うと、すっくと立ちあがり、コツコツとハイヒールを鳴らしながら、店の奥へと歩いていきます。

 そのお尻には、太くて長い尻尾!
 
 帰るって、どこから帰るんだろう。

 私が不思議に思っていると、お姉さんはつきあたりの奥の窓を開けて、そこから飛び降りてしまいました。

 うわっ! 

 私が窓に駆け寄ると、木々の間に、真っ白なキツネがちょこんと座っていました。

「電気代の無駄だから、窓は閉めて。鍵はかけなくていいから。それと、一昨日の夜は、水着、ありがと」

「え? 水着?」

「私、ミスコンに出ててね、水着審査があったの。私、水着、持ってなかったから、あなたのを借りたのよ」

「あっ! それで、私の水着のお尻に、穴をあけたの?」

「そう」
 
 ……、カマイタチの仕業じゃなかったんだ……。

 キツネはウインクして身をひるがえすと、森の中に消えてしまいました。

 ……ミス・コンって、キツネだから?

 私はキツネのお姉さんに言われた通り、窓をきちんと閉め、鍵はかけず、元いた場所に、とことこと戻りました。

 すると、テーブルの上に、一万円札が残っています!

 私はそれを手に取ってみました。

 パリッパリです。

 と、ほんの少し、しならせただけで、乾いた音をたてて、破けてしまいました。
 いえ、破けただけではありません。
 私の手にしていたそれは、茶色い枯れ葉になっていました。

「きみは、その偽札で、私たちをだまそうとしていたんだね」

 声に振り返ると、私をさんざん待たせていたあの若い男の人が、腕を組んで、立っていました。

「違います。これは、キツネのお姉さんのものなんです。私は、ちゃんとしたお金を持っています」

 私は、テーブルに枯れ葉を置くと、スカートのポケットから、一万円札を取り出そうとしました。

 ……。

 あれ? 
 
 あれ? 

 ……。

 ない! 

 ない!   

 ポケットの中に、確かにいれていたはずのお札がありません! 

 おかしい! 
 どこかに落としてしまったんでしょうか。

 私は、自分の周りの床に、目を配りました。

 でも、お札はありません。

 どこにもありません。

 あるのは、テーブルの上の枯れ葉だけ。

「アユちゃん! 大丈夫だ!」

 リクちゃんです! 

 突然、現れました。
 
 外は暑くてたまらなくて、店の中に入ってきたんでしょうか。

「俺がここで、死ぬまで働くよ」
 
 何、言ってるの……。
 
 突拍子もないことを言い出したリクちゃんに、私は唖然としてしまいました。

「ふざけるな。おまえを雇うかどうかは、こっちが決めることだ」

 お店の男の人は、リクちゃんに向かって居丈高に言います。

 こんな人、ドン・ジョンソンの店員、失格でしょう。

「おまえ。二の腕の筋肉を見せてみろ」

「ニノウデノ筋肉、ですか?」 

 リクちゃんは、二の腕がどこかわからないようでした。

 お店の男の人は、ふんと鼻先で笑いました。

「上腕二頭筋のことだ」

「ああっ! はいっ!」

 リクちゃんはそれで、わかったようです。
 
 私には、そっちの言い方のほうがわからなかったのに……。

「俺の上腕二頭筋、見てください。はぁっ!」

 リクちゃんは気合と共に、肘を曲げ、力こぶをつくりました。

「うん。なかなか、いい筋肉だな。よし! 死ぬまで働かせてやろう」

「よかったー! じゃあ、俺はここで死ぬまで働くから、アユちゃんは帰りなよ」

「いいや。だめだ。その子を帰らせるわけにはいかない」
 
 お店の男の人は、今度は、私に向かって、低い声をだしました。

「彼は筋肉があるからただの奴隷になってもらって、きみはかわいいから性奴隷になってもらう」

「何なんですか、それ……」

 ただの奴隷とセイ奴隷……。
 セイ奴隷って……、正奴隷?
 正式な奴隷ってこと?

「きみたちキツネは、いつも、その枯れ葉のお札で、スジコ丼を食べにくるだろう。もう許さない」
 男の人は、テーブルの上の枯れ葉を指差して言います。

「私、キツネじゃありません」

「性奴隷の時は、今の女の子の姿でいてね」
 男の人は気味の悪い笑顔で言います。

 私は、思わず自分の体を抱きしめました。

「私、キツネじゃないし、『正』奴隷にもなりません」

 頭がくらくらします。
 と思った瞬間、世界が真っ暗になりました。
 ……。