ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる

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 ドン・ジョンソンの大きな扉には、緑のツタが、からまっていました。

 まるで、お金持ちのお屋敷の玄関のようです。

 扉の手前の台には、革の表紙のメニューがお行儀よく載っています。

「わあっ……」
 
 私は小さく声をあげて、リクちゃんを振り返りました。

 まだ大人の魅力的な女にはなっていないけど、ドン・ジョンソンに、リクちゃんとこうしてふたりで一緒に来られたことを、私は秘かにうれしく思っていたんです。

 リクちゃんは、革の表紙のメニューを、まばたきもしないで見ていました。

「リクちゃん。何か、食べたいのある?」

 リクちゃんはただ首を横に振りました。

「よくわからないし」

 そう言って、ピンピンの一万円札を両の手で差し出してきました。

 私は、それをやっぱり両手で受け取りました。

 卒業証書授与みたい。

 でも、さすがに、お札を両手で持ったまま、お店の人と顔をあわせることはできないので、私は、折り目がつかないよう、大事に、そうっとスカートの右のポケットの中に、お札をいれました。

「じゃあ、行ってくるね」

「うん。がんばって!」

 リクちゃんは、ガッツポーズをして、見送ってくれました。
 
 何だか、私の心臓、ちょっと大きくなったみたいです。

 ドキドキしています。

 木の扉は、少し重く感じました。

 やっぱり、子供が入るお店じゃないんだ、と私は思いました。

 心臓がまた大きくなったようです。

 ぎいっと木のきしむ音がして、扉はゆっくりと開きました。

 私は、右のポケットの中のピンピンの一万円札にしわができないよう気をつけて、ぎこちなく歩きました。

 脚もピンピンです。

 巨大化した心臓はドキンドキンです。

 店の中は、薄暗く、ひんやりと冷房が効いていました。

 すぐ左手がレジで、そこにスーツ姿の若い男の人が立っていました。

「いらっしゃいませ。お待ち合わせですか?」

「いえ」
 私は慌てて首を横に振りました。

 私、まだ大人の魅力的な女じゃありませんから。

 危うく、そう言いそうになりました。

 耳が、かあっと熱いです。

「おひとりさまですか?」

「いいえ」
 私は、また大きく首を横に振りました。

 いくらなんでも、こんなお店に、学校の制服を着た女の子が、おひとりさまで食べにこないでしょう。

 それは、ちょっと言いたくなりました。

 だって、大人なら、それくらい考えられるでしょうに。

 でも、すぐに、ああ、今、私、ひとりはひとりなんだ、と思い直しました。

 この男の人の接客は正しいようです。

 やっぱり、ドン・ジョンソンは、ちゃんとしたお店なのでしょう。

 私は、ひきつった笑顔で言いました。
「あの……、私、スジコ丼をひとつ、持ち帰りしたいんです」
 
 すると、男の人はちょっと首をかしげ、その視線を私からゆっくりと横にずらしました。

 そうして、しばしそのままの状態でいます。

 私は、不安になりました。

 女子中学生のおひとりさま食いはよくても、女子中学生がスジコ丼を持って帰るのはいけないのでしょうか。

 私の心臓は、どんどん大きくなっているようで、どんどん暴れだしています。

 もう、ドカドカです!

「すみません。少々、お待ちください」
 男の人がようやく声をだしました。

 私は、ドカドカの心臓にひっくり返されそうになりながら、大きくうなずきました。

 男の人は、私を残し、店の奥のほうへと消えていきます。