会議室に入ると、そこには……重そうな鎧に身を包んだジルが立っていた。

「フリーディアの西にグレノア軍が現れた。どうやら撤退した様に見せかけて隠れていたらしい」

部屋に入って来た俺を振り向きジルはそう言うと、困った様に肩を竦めて見せた。

「俺はこれから軍を率いてグレノア軍の元に向かう。それは大きな戦になるだろう」

そのジルの言葉にコクンと頷いて返すと、ジルはとても真剣な顔をして俺を見つめた。

「お前はここに残ってくれ」

「……何で?」

思いもよらなかったジルの言葉に、驚いた様に目を見開いたまま声を漏らす。

するとジルは青い瞳を微かに揺らし、そっと窓から薄暗い空を見つめた。

「報告によると兵士の姿はあるが……魔物の姿がどこにも見えない」

そう言ってジルは拳を握り締めると、それをカタカタと微かに振るわせる。

「魔物を操る奴が必ず居る筈なんだ。城を空けている時にそいつに城に乗り込まれてみろ。それこそ……フリーディアの終わりだ」

「俺に……城を守れって事か?」

そう小さく問い掛けると、ジルは静かに頷いてそっと目を閉じた。

「城を……頼む」

そう言ってジルが俺に向かって深々と頭を下げた。

……ジルが俺に頭を下げる姿なんて全く考えた事も無かった。

その彼の姿を茫然と見つめたまま、彼の背負っているモノの重さを知る。

「……おう」

そう短く返事を返すとジルは小さく頷き、それから何も言わないまま足早に部屋から出て行った。

 
一人残された静かな部屋の中、そっと窓から外を見ると……雨が降っていた。

黒い不気味な空から大粒の雨が降り注ぎ、この窓を激しく叩いている。


それはまるで、これから起こる《悲劇》に……マナが流す《涙》に見えた。