《間もなくアルテイルに到着します。お忘れ物のございませんよう……》

到着を告げるアナウンスが聞こえると同時に、俺の肩に凭(もた)れかかるように眠るジルの顔をそっと見つめた。

ジルは大分疲れていた様で、列車に乗り込んで間もなく眠ってしまった。

またよくない夢でも見ているのか……眉間に深い皺を刻み、時折苦しそうに呻く。

「ジル、起きろよ!!駅に着くぞ!!」

そう言ってポンポンと腕を叩くと、ジルはハッと体を起こし、慌てて俺から距離を取った。

「……寝て……いたのか?」

そう言ってジルは手で顔を押さえると、微かに唇を噛み締める。

「顔色が良くありませんね」

そう言ってアシュリーが心配そうにジルの顔を覗くと、ジルは小さく首を横に振って見せた。

「平気だ」

そう短く答えると、ジルが……優しく微笑んだ。

ジルの微笑みなんて、初めて見たかもしれない。

皆は少し驚いた様に目を丸くし、何も言わないままジルを見つめている。

やっぱり……どこかオカシイ。

寝起きのせいかジルは《いつもの自分》を中々取り戻せない様で、不安そうに瞳を揺らし俺達からそっと顔を背けた。

そんな彼の姿にほんの少し不安になったが、深くは追及しない事にした。