Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-



世界はまばゆい光の粒子に溶け、やがて私は、自分の部屋の冷たいベッドの上で目を覚ました。

ひどく静かな夜だった。


窓の外からは、見慣れた日常の騒音が聞こえる。

遠くを走る車の音、近所の誰かの話し声。


ここには歪みもなく、蒼も、いない。


私は恐る恐る、自分の首筋に手を触れた。

指先には滑らかな肌の感触があるだけで、そこにはもう、熱い脈動も、彼が刻んだあの紋章も感じられない。


「……嘘……」


あれほど濃密で、肌を焼くほどに熱かった夜も、あの日差しも、すべては幻だったのか。


私はベッドから立ち上がり、部屋の窓際へ歩み寄った。
ふと、鏡に映った自分の首筋に目が止まった。

何も刻まれていないはずのうなじを、月光がなぞる。

その瞬間、夜の銀光に反応するように、肌の下で紋章が淡く、切ないほどに淡く、光の筋となって浮かび上がった。



「……蒼?」


それは生きているみたいだった。

けれど、もう彼が私の名前を呼ぶ声は聞こえない。
彼の大きな手で私の頬が包まれることも、街中で誰にも触れさせまいと抱き寄せられることも、もう二度とない。


私はその光を確かめるように指先でなぞった。

肌に直接触れる感覚はもうないのに、指先が触れた瞬間、胸の奥が鋭く痛む。


あれは、彼が私に遺した最後の形見だ。

この光が消えることは、彼が完全にこの世から消滅したことを意味しているようで、私は紋章を隠すように、自分の髪を両手で強く握りしめた。


部屋の中は、彼がいないという事実だけで、こんなにも広い。


昨夜まで彼の腕の中にいたのに、今は一人。


その落差が、喉の奥から込み上げる震えとなって私を襲う。

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