Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-



「……もし俺が最初から人間だったら、
もし俺たちが歪みの中で出会わなかったら……
俺たちは、ずっと一緒にいられたのかって何度も考えた。
……紬。全てのものは、欠けているからこそ、美しいんだ。
俺たちのこの不完全な出会いも、終わりゆくこの結末も……完璧じゃないからこそ、これほどまでに愛おしい」




彼の輪郭が、光に溶けて淡くなっていく。
それは、彼という存在の消滅を意味していた。



「……泣くな。お前の笑顔を、俺の最後の記憶にしたい。それに、お前が元の世界で、笑っている姿を想像するだけで、俺はどんな幸福よりも満たされる」



「……蒼、行かないで……! 私を置いていかないで……っ!」


「……紬。俺の魂の半分をお前に預けたんだ。だから、お前は俺の分まで、お前の世界を、生き抜いてくれ」


「うそつき……」



絶対帰さないって、言ったのに……────



彼の手が、私の頬からゆっくりと離れていく。

光の中で、彼は今までで一番優しい、ひとりの男性としての顔で微笑んだ。




「……愛してる。つむぎ」




彼が最後に私の唇を奪った瞬間、世界が真っ白に染まった。


彼を抱きしめていたはずの私の腕は、空を切る。

あんなに熱かった彼の体温も、荒い吐息も、全部が光の粒子となって消えていく。



「……あお……い……ッ!!」


嗚咽で声が出なかった。

“愛してる”

って、まだ伝えていなかったのに。

その言葉さえ、もう届かない。

彼が消えた場所には、もう何も残っていない。



ただ彼の最期の言葉と、その不完全で、あまりに美しい愛だけが、私の鼓動の中に永遠の響きとして刻み込まれた。


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