「……食うか、食われるか。そんな殺伐とした場所で、紬をこんなふうに追い詰め、壊れさせていくのは耐えられない。……俺は、お前をこんな場所で終わらせたくないんだ」
「……蒼、何言って……」
すべてを察した私が言葉を失うと、蒼は悲しげに、けれど幸福そうに微笑んだ。
「……俺の魂を、歪みに捧げる。俺が消滅すれば、歪みは一時的に収束し、お前を元の世界へ帰す道がひらく」
彼は私の首筋の紋章を、最後のお別れのように、愛おしそうに親指でなぞった。
「……お前を元の世界へ帰す。それが、俺にできる最後の愛だ。お前が、歪みのない、光に満ちた場所で、普通に幸せになってくれるなら、俺の魂などいくらでもくれてやる」
「嫌だ……! そんなの、全然幸せなんかじゃない!!!」
私は彼の胸にしがみつき、声を上げて泣いた。
彼は私の背中を優しく、強く抱きしめ返して、私の耳元で囁く。
「……泣くな。俺は言ったはずだ。死ぬより辛い目に遭うかもしれない。それでも俺についてくるか?と」
彼は私の頬を両手で包み、自分と額を合わせた。
その瞳には、彼が今まで積み上げてきた全ての愛と、未来への願いが宿っていた。
「……せめて最後は、お前に触れていたい。お願いだ、紬。俺が消えるその瞬間まで、ずっと俺の手を離さないでいてくれ」
彼の願いは、あまりにも切実で、あまりにも愛おしいものだった。
けれど、私は首を縦には振れなかった。
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