Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-



街の入り口をくぐった瞬間、肌を刺すような冷たい空気が二人を飲み込んだ。


隠れ家で温め合っていた体温が、嘘みたいに急激に奪われていく。


「……っ」


歪みによる侵食が進んでいる…?────


思わず息を呑むと、首筋の紋章がカッと熱を帯びた。

この街全体が、私という異物を鋭く嗅ぎつけている。

そう直感するほど、重苦しく空気が淀んでいる。


蒼は何も言わず、私の手を掴んだ。昨夜のような柔らかい手つきではない。
私を完全に制御し、どんな歪みからも隠そうとする、番人としての硬質で冷たい握り方だった。


「……いいか、紬。俺の側を決して離れるな」


蒼の瞳は、今は深い夜の色に染まっている。


「お前という“糧”の甘い匂いを、この街の住人に嗅がれるわけにはいかない。……もし誰かに触れられたら、俺がその腕ごと切り落とす」


その言葉は脅しではなく、本気だった。

街を見渡すと、住人たちの瞳は光を失い、影のようにふらふらと歩いている。

彼ら一人一人が、何らかの歪みを抱え、そのせいで生気を吸い取られているようだった。



「……俺たちの目的はただ一つ。“俺とお前が、共倒れせずに生き延びるための対価”を見つけることだ」


蒼は私を背に庇うように歩き出す。


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