Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


あらためて突きつけられる事実に、胸の奥がチリッと痛む。


「……紬、」


不意に名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。


「お前が元いた世界は…そんなに、帰りたくない場所だったのか?」


「え……」


「さっき、『助けて』って言っただろ。……あの歪みは、お前の心が呼んだものでもあるんだ」


蒼の言葉が、私の図星を突く。

仕事ばかりの、終わりのない毎日。

誰に必要とされているのかも分からず、ただ責任だけを背負わされていた日々。


「……私、ずっと誰かに見つけてほしかったのかもしれない」


膝を抱えて、ぽつりと呟く。


「でも、こんな風に蒼を傷つけてまで、ここに来たかったわけじゃないよ」


沈黙が流れる。
蒼は何も言わずに、ただ静かに私を見つめていた。

やがて、彼は重い腰を上げて立ち上がると、私の目の前までやってきた。


そして、大きな手が私の頭の上に、ポンと置かれる。


「…傷ついたのは、俺が勝手にやったことだ。お前は気にするな」


「蒼…」


「……とりあえず、今日はここで寝ろ。数日休んで、お前を帰すための『繋がり』の手がかりを探しに行く」


ぶっきらぼうな言い方。
けれど、その手の温もりは、現実世界の誰よりも優しかった。


私はその夜、初めて見る異世界の天体を眺めながら、
帰りたくないと思ってしまった自分と、彼に惹かれていく自分に、戸惑い始めていた。


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