在りし日の、きみの残像。



「この手紙、どういう内容?」

 心底不思議そうな神田さんを見て、ふっと我に返る。

「自分で読みなよ。これ、全部、神田さん宛ての手紙なんだし」

 それもそうかと言いたげな表情をして、彼女は手紙を読み始めた。

 ……僕は、こういうものを人伝いで渡すのはどうなのだろうかと思い始める。

 デリカシーのなさが浮き彫りになり、恥ずかしさより申し訳なさが勝った。


「これって、ラブレター?」

「そう。クラスの男子、大半は神田さんのこと好きみたいだし」

 言っていいものかと考えつつも、根が素直なのか正直に言ってしまう。


「へえ」

 なんと言っていいのか、困ったのだろうか。

 ふと、彼女の様子を窺う前に忠告した。


「でも、あいにく、僕は神田さんを好きじゃない」

 失礼だろうか?でも本音だ。嘘を吐いてまで仲良くしたい相手じゃない。


「ふふ、いいね、きみ。面白い」

 機嫌を損ねた様子はないけれど、僕は嬉しくなかった。

「あまり嬉しくない言葉だね」

「まあいいじゃん。きみ、名前は?」


 この人は、僕と会話する気がないのかもしれない。でも、渋々苗字を告げる。

「……木野」


「そうじゃなくて、名前を聞きたいの」


 神田さんは不満げだ。だけど、名前は今しがた名乗ったじゃないか。

 僕は一瞬不機嫌になったものの、もしかしてと思い当たる。


「……瑞希、だけど」

 下の名前のことなのだろうか、神田さんが気になっていたのは。

 そう思っていると、やはり神田さんは嬉しそうなオーラを纏う。

 なんとなくそれが癪で、一言。


「僕の名前なんて知って、何か意味を成すかな」

「私、瑞希くんって呼んでいいかな?」

 僕の反論は、綺麗にスルーされる。少し苛つくが、いちいち腹を立てていても仕方ない。

「別にどっちでも……」


「やった。ありがとね、瑞希くん」

 こんな些細なことで喜べる神田さんは、幸せだな……。


 皮肉ではなく本心で、そう思った。