家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 その夜。

 二人で夕食を食べて、お風呂も済ませた時間、明莉はリビングにいた圭二に向かって声をかけた。

「あのね、圭ちゃん。ちょっといいかな?」

 普段通りのピンク色のパジャマを着て、髪も下ろしたリラックススタイルなのに、こんな話であるだけに、だいぶ緊張していた。

 明莉の声掛けに、部屋の隅でなにかを箱に詰めていた圭二が振り返る。

 細身の体格を紺色のスウェットに身を包んだ圭二も、お風呂上がりだ。

 黒の短髪はしっとりしていた。

 どうやらドライヤーをちゃんとかけなかったようだ。

 こういうところは少しルーズである。

「あ、うん。ちょうど俺も話があったんだ」

 圭二は穏やかにそう言ったが、明莉の胸には不審に感じる気持ちが生まれた。

 なんとなく様子が違うように感じられたのだ。

 その圭二が振り返り、床にあぐらをかいて座る。

「実は……」

 それでも話を聞いてくれる体勢だと感じられたので、明莉は目の前のソファに腰掛ける。

 重い口調で切り出そうとした。

 でも圭二が「いや」とそれを遮った。

 明莉の不審に思う気持ちはさらに高まったのだが、その感覚は正解だった。

「もう聞いても意味ないからいいよ。あのさ、明莉。俺、明日、ここを出てくから」

 奇妙に穏やかな口調で言われた内容を、明莉はすぐに理解できなかった。

(出てく? え? なに? 旅行……帰省……じゃないよね。じゃあ……)