家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 明莉の言葉に、慌てたのは巳影だ。

「そんなことはない。俺こそ、『現在の自分を見てほしい』という気持ちがあったとはいえ、正体を偽っていたようなものだ。すまなかった」

 そんなふうにフォローしてくれる。

 これもまた、とても優しい言葉だ。

 明莉がそっと顔を上げれば、視線が合った。

 視線の先の巳影はまだ申し訳なさそうな顔だったけれど、やがて頬が緩む。

 少し無理をした様子ながらも、笑みを浮かべた。

「でもやはり、大事なのは『現在のこと』だと思うんだ。あのバーで偶然再会できたとき、これは運命だと思った」

 そんな表情で出てきたのは、あの夜のことと、そこにあった巳影の気持ちだ。

 明莉の心臓が小さく跳ねる。

 このあとの言葉が予測できて、とくとくと鼓動が速くなってきた。

 巳影は大切そうに、言葉を続ける。

「だから関係を持ったことに後悔なんてないし、むしろ幸運なきっかけだったと思って、プロポーズした」

 はっきり言い切る彼はもう、『朝日奈くん』ではなかった。

 引っ込み思案で暗かった少年はもう、過去のものだ。

 でも彼の中にずっとあったとても優しい部分と、まとっている安心感はしっかり残っている。

 今の彼は、すべてが内包されていつつも、大きく成長を遂げた立派な大人の『泉谷 巳影』だ。