家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 巳影は神妙な顔のまま、話を続ける。

「たまにしか会う機会はなかったし、当時の俺は引っ込み思案だったから、とても女子生徒と気軽に話すなんてできなかった。それでも明莉は俺に良くしてくれただろう。俺が部室に顔を出したときは話しかけてくれて……」

 聞くうちに、明莉の頭にも想い出がよみがえる。

 確かに自分の体験した記憶だ。

「そうだった。朝日奈くんって男子とたまに話してた。……下の名前まで聞いてなかったんだね。ごめん……」

 後悔も湧いた。

 巳影のことを、昔の姓でしか認識していなかったのだ。

 名前は変わっていなかったのに。

 でも巳影は小さく首を振った。

「いや、そんなものだ。中学生男子なんて、名字で呼び合うのが普通だからな」

 それで理解あることを言ってくれる。

 確かに小学校ならともかく、中学生以上だと男子同士の付き合いは名字が主だ。

「……そっか。それで白檀の香りが懐かしく感じたんだ。朝日奈くんと話すと、どこか落ち着いた気持ちになれたから……」

 思い出せば、もっと違うことも記憶から出てきた。