家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 次の言葉は、やや小声になった。

「中学時代、俺は『朝日奈 巳影』という名前だった。当時はあまり洗練されたタイプではなくて……眼鏡をかけていたし、見た目も全然違っただろうな。同級生の中でも『暗い』とよく弄られていた」

 やっと届いたアイスコーヒーをお供に、巳影の話が始まった。

 そこまで聞けば、明莉にも覚えがあった。

 水瀬中学校は一学年六クラスもある公立中学校で、二校分の小学校の子どもが進級するシステムだった。

 そして巳影は小学校が違ったほか、明莉と同じクラスになったことは一度もなかった。

 つまり同じ学校に所属していても、同級生全員を知っているのは、相当顔が広い人でもない限り、あり得ないのだ。

「中学二年のときかな。明莉が茶道部に入ってきただろう? 幽霊部員ではあったが、俺もその部活にいたんだ」

 それで明莉はすべてを理解した。

 全部、自分の知っていることだったからだ。

「うん……。前にいたテニス部が合わなくて、文化系の部活に入りたくて……」

 信じられない気持ちになりながらも、話した。