家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

(そんな……急に仕事を失うなんてことある?)

 その日、なんとか残りの仕事を片付けて、明莉はとぼとぼと帰路に就いた。

 春の夕方はうららかな良い陽気だったが、心地良さを感じる余裕など一ミリもなかった。

 帰り道の明莉は、オフィスカジュアルのジャケットを脱いで片手にかけて、下は膝丈スカートを穿いている。

 会社でまとめていた茶色のロングヘアも下ろして、完全に退勤姿だ。

 普段なら開放感が溢れるのだが、今はそんな気分が湧くはずもない。

 いつも活き活きとしている明莉の丸い瞳の目元は今、明らかに不安が満ちているだろうし、やわらかな頬も強張っていた。

(あ、そうだ……夕飯、どうしよう)

 普段、帰りによく寄るスーパーに差し掛かったことで、やっと現実が頭に浮かんだ。

 冷蔵庫の食材について、頭に巡らせる。

 今日は買い置きの食材でなんとかなりそうだと思い、現実について考えられることに、少しだけほっとした。