家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 自分は幼い頃、祖父の屋敷に住んでいた。

 そして祖父には懐いていたから、白檀の香りが漂う部屋で過ごすことも、多々あった……。

(まさか、そのときの……?)

 そう頭に浮かんだものの、確定ではないし、まさかこの流れでは言えない。

 巳影が切り出すタイミングは、またしてもなくなった。

「すみません、変な話をしちゃいましたね。もう一杯頼みます」

 巳影は変な顔をしていたのかもしれない。

 明莉がこちらを見て、苦笑した。

 気を取り直すように言い、バーテンダーを呼ぶ。

 メニューも見ずに、同じカクテルの、ジュースをラズベリーに替えたものを注文した。

 話を切り上げられて、巳影はやや消化不良だったが、明莉はもう別の話に移っていた。

(……彼女が少し気分転換できたなら、良いか)

 巳影はそう思っておいた。