家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

「私、ちょっと嗅覚が鋭いのかもしれないです。聞香(もんこう)とか得意なんですよ」

 その巳影に対して、明莉は少しはにかんだように説明した。

「日本の文化ですよね。香りを味わって、どれなのかを当てる遊びでしたっけ」

 数秒考えて、巳影は『聞香』がどんなものなのかを口に出す。

 それは当たっていたようだ。

 ……だって、巳影も過去に経験していたのだから。

「はい、それですね。中学のときにやってみて、和の香りの種類なんて知らなかったのに、全部当てちゃったから、先生にびっくりされました」

 でも明莉は思い当たらなかったらしい。

 単に言い当てられたことが嬉しかった、という顔をして頷く。

 違う話をしたためか、酔いが少し醒めたようだ。

「……なんか懐かしいな。昔、たまに感じてた……」

 ハンカチを見つめて、明莉がぽつんと言う。

 巳影は再び驚いた。

 明莉の言う『昔』について、勘繰ったことがあったからだ。