家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

「差し当たって、住む場所に困るなって……。でも賃貸物件を見れば見るほど、憂鬱になるんです。お金の心配まで湧いてくるし、私、なんでこんなことになってるんだろう、って……」

 カクテルがほとんどなくなる頃、明莉の気持ちは少し変わったらしい。

 泣き言を言うかのような響きになり、実際、ぐすっと鼻を鳴らした。

 涙が込み上げた様子に巳影がドキッとしたときには、丸くて愛らしさのある目元から、ぽろっと涙が零れていた。

「情けないですよね。こんな状況になるのも、あなたみたいな見ず知らずの人に愚痴るのも……」

 明莉が慌てた様子で目元を拭う。

 自嘲するように言った。

 でも巳影はきっぱりと言う。

「そんなことはありません。こんな不運に見舞われたなら、発散したくなって当然です」

 明莉の言葉を優しい否定で返した。

 明莉が言った『見ず知らず』に少し胸は痛んだけれど、これも今、自分の感情を出すときではない。

 飲み込んで、代わりにポケットを探った。

 畳んだハンカチを取り出す。

 そっと明莉のほうへ差し出した。

 明莉は驚いたようだ。

 涙に濡れた目元が丸くなる。

「……ありがとうございます」

 少しためらう様子を見せたが、それでも受け取ってくれた。

 水色のハンカチを広げて、目元に当てる。

 涙を軽く拭ったが、そこで目をまたたいた。

 なんだろう、と巳影が思ったときには、明莉が確かめるように、ハンカチをもっとよく広げて、軽く振っていた。

「なんだか良い香り……?」