家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 でも彼女は、酔っているにしては、しっかりした対応であった。

 よって巳影は安心する気持ちで、カウンターの中へ声をかけた。

「そういうつもりではないですが……。とりあえず、マスター、お水をお願いします」

 グラスを磨いていたバーテンダーに注文する。

 見たところ、彼女が飲んでいるのはカクテルらしかった。

 でも水のグラスはない。

 酒だけ飲むと酔いが早く回ってしまうのだ。

「頼んでないですけど……?」

 彼女は不審そうに巳影を見た。

 そのとろっとした色の瞳は、巳影の心拍を簡単に速くする。

 彼女にこんなに近くで、こんなに普通に接することができるなんて、思わなかった。

 数年……いや、もう十数年前に抱いた感情が、一瞬、胸によみがえったくらいだ。