家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 あの夜のことを思い出すと、巳影の胸には今でも高揚がよみがえる。

「お隣にお邪魔してもよろしいですか?」

 薄暗いバーのカウンター席とはいえ、話しかけるのには、少し勇気が必要だった。

 カウンターの数席離れたところに座っていた明莉は、見るからに荒れていたからだ。

 でも巳影は店に入り、席に着いて、ふと横を見ただけですぐ理解した。

 酒を飲む彼女の横顔に、強い懐かしさを感じたのだから。

「なんですか? ナンパならお断りです」

 すでにだいぶ飲んだのだろう。

 頬ははっきりと赤かったし、声も少しふにゃっとしていた彼女は、警戒の眼差しで言った。

 急に男性から声をかけられた女性としては、当然の反応だろう。

 この夜の巳影は、仕事上がりに飲みに来たために、スーツ姿だった。

 よって遊んでいるように見える可能性は低いと思われた。

 とはいえ、そんな外見だけで、巳影の身分がすぐにわかるはずがない。

 警戒されても自然だ。